赤いチェリーとオリガミ

前話 あきこvol.2 http://tachibanaayaka.blog.jp/archives/49471404.html


気付いたのは、いつも通りの朝を迎えた午前8時だった。
いつも通り、きのこを入れた炊き込みご飯と、きのこの味噌汁、明太子を食べ、顔を洗い、歯を磨き、白衣を鞄に入れたところで、携帯のランプがちかちかと点滅をしていた。
誰からだろう、とホームボタンを押したところで、いつも乗るバスの時間3分前という事に気づき、再度携帯を鞄に突っ込み家を飛び出す。
はあ、はあ、と息を切らしバス停にたどり着いた時にはもう、バスが通り過ぎているところであった。ああもう!と走り出す。駅までは徒歩30分。走れば26分。よし、間に合う。
あきこは長い髪をゴムでまとめ、全速力で走り出す。
駅まで走るのは久しぶりだった。焦りながらも周りを見渡すと、少しずつ春が来ていることを感じた。木々には蕾がつき、少しずつ緑が増えてゆく。ああ、また春がくるのか。そういえば少し鼻がムズムズするなあ。花粉の季節がやってくる。またアレ〇ラをまとめ買いしとかなきゃな。 心地よい風が首を撫でる。そうだ、今年の春は思い切って髪を切ろう。心機一転して、またここから始めるんだ。もっともっと研究に力を入れて、一刻も早く父と母の手がかりを見つけるんだ。そうして大きくなった私を見てほしい。そうだ、それまでにもっと誇れるような人間になって、父と母を喜ばせよう。全てが終わったらきのこのバイトもやめてスイカの栽培のバイトに切り替えよう。明るいビニールハウスの中、大きくて甘いスイカを作ろう。特にスイカが好きなわけではないけれど。
自然と口角があがるのがわかった。わたし、笑えてる。そういえば、こんな風に心が軽くなること、あまりなかったな。
悩んでいても仕方がない。悩むのは、進むべき道を選ぶときだけにしよう。後悔して、くよくよして、どうしよう、って過去の事を悩んだって、なんにも変わらないんだ。
あきこの足は自然とスピードをあげてていた。駅までもう少し。少し冷たい風を吸い込んで、横断歩道を駆け抜ける。そういえば、白線の上だけを渡って落ちたらワニに食べられるぞっていう遊びを父としていたな、少しスピードが落ちたその時、
「あぶない!!!」
大きな声が聞こえたと思ったその瞬間、体ががくんと跳ね上がるのがわかった。車のクラクションが鳴り響いている。私の記憶は、それで終わった。



ENDING
春よ、来い/松任谷由実
https://nana-music.com/sounds/0260b2ea/





【INFOMATION】 

4月2日来る日曜日
立花綾香ワンマンライブ「立花の乱」
@渋谷チェルシーホテル
op/st 18:30/19:00
adv/day ¥3,000/¥3,500(+1D)
立花バンド新体制でのライブ。
ご予約は下記より。
※お名前、人数を記載の上お送りください。
replyform.tachibana@gmail.com

photostudio_1477679649989
 

前話 「あきこ」vol.1  http://tachibanaayaka.blog.jp/archives/49452851.html

秋子はきのこを木に植え付けながら、少しの罪悪感に苛まれていた。
長年続けてきたスライムの研究にようやっと兆しが見えた瞬間だったかもしれないのに、私は、バイトを、そう、生きる事を選んでしまった。
研究室に入ると決意した頃の私は、どこへ行ってしまったのだろうか。
いつの間にか私の生きる理由が、スライムを辿って両親の真実を見つけ出すことから、お金を稼いで生き抜くことになってしまっているのではないのか。
それでもやはり、孤独な私にはお金が必要だし、これは仕方のないことなのだと自分に言い聞かせ、再びきのこの植え付けに集中する。
一つ、植え、一つ、植え、その度に何度も迷いが頭をよぎる。
だめだだめだ、こんなんじゃ全然集中できない。秋子はいつもより早めの休憩をもらうことにした。
休憩時間に入り、何気なく携帯を開くと、研究室の高橋から何通ものメールが届いていた。
「秋子さん今どこにいるんですか!」
「スライムが!スライムが大変です!」
「今すぐ帰ってきてください!」
「室長が!室長が!!!」
「しつty」
秋子は携帯を握っている自分の手が震えていることに気付いた。そうか、私、やっぱりまだ、、
目を閉じると家族3人で暮らしていた思い出がふっとよみがえる。
初めて家族旅行にいった湖。夏の暑い日に一緒に作った再生紙。
料理は得意ではないが、白米を炊くのが格別にうまかった母、寡黙だがしっかりと家族を守ってくれる父。二人は私の誇りであり、憧れであり、大好きな存在であった。
そうだ、私は、二人の行く先を探すんだ。それが私の生きる理由だ。
再び強く決心した秋子は手の震えが収まっていることに驚いた。そして自分の腕を見てさらに驚いた。休憩が終わるまであと1分じゃないか!!!!!!再び高橋からの連絡を告げる携帯の電源を落とし、休憩室を後にした。
バイトが終わるまで、あと1時間半だ。 

続 


【たまにはCMも挟みますよ】

4月2日来る日曜日
立花綾香ワンマンライブ「立花の乱」
@渋谷チェルシーホテル
op/st 18:30/19:00
adv/day ¥3,000/¥3,500(+1D)
立花バンド新体制でのライブ。
ご予約は下記より。
※お名前、人数を記載の上お送りください。
replyform.tachibana@gmail.com 
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ライブ情報更新!HPもチェックしてね。
http://tachibanaayaka.wixsite.com/tachibanaayaka


 

秋子は白衣にしわとりのスプレーを掛けながら、窓の外を見た。
季節はもう冬。スライムの研究を初め、今年でついに4年目。何かを続けるということは本当に難しい事だということはつくづくわかっていながらもやめられないのは、もはや好きということよりプライドと意地の方が勝っているかもしれないそれでも、それでも、やめられないのだ。

秋子は、昼間に研究室でスライムの研究をし、夜にはバイトに行くという生活をしていた。
バイトはきのこを育てるバイトだ。暗い建物の中、朝と夜の区別もつかない。きのこを育てるバイトは、秋子にとっては余計な事を考えなくていい、家よりも落ち着ける時間だった。無心になってきのこの菌を木にくっつけてゆく。このきのこがブランドものだろうが、何十万円するものだろうが、そんなことはどうだってよかった。バイトは深夜2時まで入れた。終わってキックボードで家に帰り、まかないでもらったきのこ弁当で腹を満たし、なんとなくつけたテレビをみて、孤独を埋める。どこぞの料理家の人が次々と差し替えられていくフライパンをもろともせず、淡々と料理を進めていく。材料は最初から決められていて、それをただ右手左手と投げこめば、完成だ。そう、この世の中「過程」などきっとどうでもよいのだ。ゴールに辿りつければ。終わりよければすべてよし。なんでもよし。秋子はテレビの電源を落とし、ベッドに入った。



「秋子さんはどうして、スライムの研究をしているんですか?」
そう聞いてきたのは、同僚高橋。
自分も同じじゃないか、と少し腹を立てつつも「未来のためよ、」と答えた。
ここスライム研究室は、これからの世界、個体ではなく液体の時代なのだと考え、
ロボットや建物、車までもをスライム化することができないかという研究を行っている。
しかし秋子の本当の理由は違った。
秋子の両親は、秋子が高校3年生の頃、突然失踪してしまったのだ。なんで、どうして、絶望に打ちひしがれる中、玄関に落とされた1滴の青色のスライムを見つけ、両親を探すためにここ、スライム研究室へ入った。しかし、あれから4年という月日が経つ今なお、手がかりはゼロだ。
 今日もまた、きのこバイトだ。そろそろ研究室を切り上げよう、そう腰を上げた時だった。
突然、目の前の実験中のスライムが光りだしたのだ。
「室長!スライムが反応を起こしています!これは今までにない反応です!」
「なんだと!すぐに凍らせろ!そのままの状態を維持するのだ!」
秋子は驚きながらもすぐに冷却スプレーをかけた。光ったままのスライムはかちんこちんになった。そして秋子は自分の腕をみてさらに驚いた。バイトの時間まであと3分じゃないか!!!!!秋子はスライムを室長に投げ、キックボードを思い切り蹴りながらバイトへと向かった。
今日もまた、同じような1日の始まりだ。

続 

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